「紙」・文字の記録媒体の変遷

「紙」・文字の記録媒体の変遷

文字や画像といった情報を記録する媒体は、人類が現出してから今日まで多くの手段が工夫され使われてきました。保存性、可搬性、扱いやすさなど、媒体によってそれぞれの特徴がありますが、文化や思想、技術など、それら人類のいとなみを記録し発展する大きな原動力ともなりました。現代は「紙」と「電子媒体」が主要な記録手段として使われています。この特徴の異なる二つのメディアは今後どのような役割を担っていくのでしょうか。

 

粘土

古代メソポタミアでは、紀元前3000年以前から粘土板が多様な言語の記録用に使われていました。主に楔形文字が記されています。粘土を板状にした粘土板に、金属や植物の茎をペンにして文字を刻んでいました。文字の記録が容易で、携帯もでき、削れば書き直しができ、乾けば保存がききます。粘土板は3000年以上この地域で使われていた記録媒体です。

 

石・金属

保存性。耐久性に優れた記録媒体といえば「石」が最強です。風雨にさらされることがなければ数千年以上の保存が可能です。石や岩に文字を彫って刻む石碑は、文字そのものや書かれている内容が重要な研究材料となります。18世紀に、ナポレオンがエジプト遠征の時に発見したロゼッタストーンは有名ですね。書かれている文字と解読された碑文の内容は、大きな考古学的成果をもたらしました。
古代エジプト文字のヒエログリフや、古代インドでは純鉄で作られた錆びない鉄柱にサンスクリット語の碑文が刻まれたものがいくつか残っています。

 

パピルス

紀元前3000年ごろ、古代エジプトで使用された筆記媒体です。パピルス紙といわれますが、原料の繊維を絡み合わせて成形したものではないため、現代の紙とは違います。エジプトのナイル川にたくさん生えるパピルス草の茎から作られたもので、製法はかなり手間のかかるものだったようです。石や粘土板に比べて軽くて薄いこと、ペンとインキがあればすぐ書けるという利点がありました。中国から紙の製法が伝わると生産されなくなりました。英語のpaperの語源ともなっています。

 

羊皮紙

英語ではパーチメント。羊やヤギの皮を薄く延ばして漂白したもの。作るのには手間がかかって高価でした。丈夫でしなやか、ペンとインキで文字が書きやすい。折ったり綴じたりできるのが利点でした。パピルスが手に入りにくいヨーロッパでは長い間本づくりに使われました。

 

骨・亀の甲羅

古代中国では、動物の骨や亀の甲羅に文字を刻み付けて記録や占いを行っていました。甲骨文字といって漢字の始まりの形態です。硬い骨に記録するためあまり多くの文字は刻めず、もちろん本の形にはできませんでした。

 

木簡・竹簡

紙が発明される前に使われていた記録媒体です。木や竹を細長く薄く切って文字を記録しました。紀元前10世紀ごろから中国で使われて、やがて日本にも伝わりました。東アジアでは、木や竹が簡単に手に入ったこと、細長い木簡や竹簡をひもでつないでいけば長い文章を書くことができる。くるくる巻けば場所も取らないことなど比較的安価で、今でも大量に出土しています。「冊」の文字は、木簡・竹簡をつなげた形の象形文字です。

 

貝葉(ばいよう)

文字の記録媒体として、南アジア、東南アジアで多く利用されました。貝多羅葉(ばいたらよう)ともいいます。使われる植物は地域によって異なりますが、主にヤシ科の植物の葉を加工して、適当な大きさにそろえて使用しました。紀元前に起こった仏教の初期の経典は、何百年も口伝で伝えられたものが貝葉に記録され、写本として各地に伝えられ、今日でも残されています。貝葉の大きさは様々ですが、例えば10センチ×30センチぐらいに切った葉に、先のとがった固いもので傷をつけて線刻することで文字を書くことができます。筆やペンで書写することもできます。この短冊状のものを2か所ほど穴をあけて重ねて閉じればまとまった本になります。日本には多羅葉(たらよう)というモチノキ科の木があります。葉の裏にキズをつけると貝葉と同じように文字が書けることから名がつけられました。

 

「紙」の誕生

植物の繊維をほぐしてバラバラにして、水に溶かしてから網ですくって乾かしたものが紙になります。軽くて丈夫、墨と筆で書くのも容易。巻いたり折ったり、切ったり貼ったりもできる。加工が簡単で書きやすい。持ち運びも簡単ということで、世界中に広まり、現代につながっています。中国では、2世紀ごろの蔡倫という人が樹皮に麻くずやボロ布などを混ぜて改良したものが現在の紙の原型になっています。
石や粘土、植物の葉など、何千年も前の古代から、文字や図形を記録するための様々な媒体が使用されてきました。紙の製法は世界中に広まり、現代までの約2000年間、主要な記録媒体として使われています。