胆管がんの話

胆管がんの話

印刷業は、今から30~40年前までは3Kといわれて、「きつい・汚い・暗い」の代表的業種と言われていました。映画「寅さんシリーズ」で垣間見る隣の印刷屋さんはまさにその雰囲気を漂わせています。それが1900年代後半にアナログからデジタルに印刷技術が変わってからは、そのイメージはなくなったといってもいいのではないでしょうか。

少々古い話で恐縮ですが、2012年、胆管がん問題が世を騒がせました。厚労省は、印刷機の洗浄剤に含まれていたジクロロプロパンが原因の可能性が高いとして、印刷会社の元従業員の胆管がん発症者二十数人を労災認定しました。

ジクロロプロパンなどの有機溶剤は100種類以上ありますが、印刷業だけでなく、塗装やクリーニング、清掃業など幅広く使われています。有機溶剤それ自体は人体に有害なので、使用方法や使用量が決められています。

事件の発端となった大阪の印刷会社(サンヨー・シーワィピー)は、労働者数が70名、うち校正印刷部門が30名だったと言われていますから、校正印刷を専門に請け負う会社といってもいいかもしれません。

校正印刷とは、印刷物を印刷する前に、版が正しくが作られているかどうか検査するために何枚か試し印刷をすることで、専用の校正印刷機を使います。ほとんどが手作業で、刷枚数が少ないですから、印刷しては洗浄剤で洗ってまた印刷してという作業を繰り返し行うことになります。

ただ、現在の印刷会社は、一般にこのような方式で校正印刷することはなく、地方の企業ではたぶん2000年以降にはほとんど行われなくなっています。東京や大阪など専業化が進んでいる大都市では、まだこのような方式が使われていたことに当時驚きました。

また、聞くところによると、この作業場は地下1階にあり、作業は昼夜2交替制で行われて、この100㎡ほどの部屋に校正用の印刷機が7台設置されていたそうですから、換気も悪く、いるだけで気持ちが悪くなるような、相当劣悪な環境で作業をしていたと思います。

一般の印刷機での作業は、洗浄剤の使用は校正印刷の何十分の一の使用頻度しかありませんし、とくにジクロロプロパンなどの有毒性の高い材料は近年使われなくなっていました。

事件後、全国の印刷会社は厚労省が一斉検査して、健康診断や職場環境の改善が義務付けられました。また、有機溶剤も使用方法や使用料、管理方法が厳しく取り決められて使用されています。

2023年3月22日 HT記