「大ピンチずかん」と「カフネ」が2025年ベストセラー1・2位に
2025年の年間ベストセラーが発表されました。今年のランキングは、時代の変化を反映しつつも、長年愛される作品や定番の賞レースが引き続き影響力を持つ結果となりました。
2025年間ベストセラーの概要と時代背景
日本出版販売(日販)が発表した2025年の年間ベストセラー総合ランキング第1位は、鈴木のりたけ氏の絵本「大ピンチずかん3」(小学館)でした。絵本シリーズが総合ランキングのトップを飾るという事実は、近年の出版市場において、児童書や実用書といった『堅実な需要』が存在感を増している傾向を明確に示しています。
これは、かつて社会現象を巻き起こした「電車男」や「世界の中心で、愛をさけぶ」のようなエンターテイメント小説、あるいはビジネス書ブームを牽引した「嫌われる勇気」や「DIE WITH ZERO」といった作品が席巻した時代とは異なる特徴です。
近年のデジタル化や多様なエンタメコンテンツの普及に伴い、爆発的なメガヒットは特定の分野に集中し、読者の関心もより多様化・分散化していると言えるでしょう。その中で、「大ピンチずかん」シリーズのように、親子で楽しめるコンテンツや、生活に密着した実用的な書籍が安定した人気を獲得しています。
文学賞受賞作の動向:芥川賞・直木賞と本屋大賞
文学賞の受賞作は、依然としてベストセラーランキングに大きな影響を与えますが、その現れ方には特徴が見られました。
芥川賞・直木賞の影響力と『該当作なし』
2025年の芥川賞・直木賞は、話題性に事欠きませんでした。第172回(2025年上半期)では、芥川賞に安堂ホセ氏の「DTOPIA」、鈴木結生氏の「ゲーテはすべてを言った」が、直木賞に伊与原新氏の「藍を継ぐ海」が選ばれました。これらの作品は、受賞直後から書店で大きく展開され、順調に売上を伸ばしました。
しかし、注目すべきは第173回(2025年下半期)の結果です。なんと芥川賞・直木賞ともに『該当作なし』という異例の事態となりました。これは直木賞では約27年ぶり、芥川賞では2011年以来のことであり、選考委員の厳しい目が話題を呼び、結果的に『受賞作はなかったが、候補作は注目された』という現象を引き起こしました。これもまた現代的な出版トピックと言えます。
本屋大賞の圧倒的な存在感
一方、近年、芥川賞・直木賞に匹敵するか、あるいはそれ以上の実売効果を持つのが『本屋大賞』です。
2025年の年間ベストセラー総合ランキング第2位には、2025年本屋大賞受賞作である阿部暁子氏の「カフネ」(講談社)がランクインしました。「カフネ」は、2025年上半期ベストセラーの単行本文芸書部門でも1位を獲得しており、その勢いが年間を通して持続したことがわかります。
本屋大賞は、全国の書店員が『一番売りたい本』として選出するため、書店での陳列やポップ展開が非常に強力で、一般読者への訴求力に優れています。この「カフネ」の大ヒットは、文学賞の中でも特に『書店現場の推し』が、現代のベストセラーを生み出す強力なけん引役となっていることを象徴しています。
また、文庫部門では、映画化も話題となった吉田修一氏の「国宝」上下巻がそれぞれ1位と2位を独占しており、これもメディアミックスと本屋大賞ノミネート作品の強さを示す結果となりました。
まとめ
2025年の年間ベストセラーは、「大ピンチずかん3」という児童書が総合トップに立つという、多様化する市場の一面を見せつつも、本屋大賞受賞作「カフネ」がそれに肉薄する形で続くという、文学賞の商業的影響力の高さを示す結果となりました。芥川賞・直木賞の『該当作なし』という話題性も含め、現代の出版界は、読者の日常に根ざしたコンテンツと、強力なマーケティング要素を持つ話題作が混在する状況にあると言えます。(G.M)