書店員がいちばん売りたい本
ことしも「本屋大賞」が発表された。
いまや「芥川賞」や「直木賞」の受賞作品よりも売り上げ部数が伸びる賞として、ますます注目を集めている。
「本屋大賞」は、「全国書店員が選んだ いちばん! 売りたい本」というキャッチコピーを掲げている。つまり、書店員が実際に読んで「面白かった」「おすすめしたい」と感じた本を選ぶという点にこだわっているのだ。
この賞は広報への取り組みを重視していることが強く感じられる。テレビ・新聞といったマスコミに加え、SNSなどを通じて広く情報が届くよう、宣材がしっかり用意されている。ノミネート作品の画像や紹介テキスト、選考過程や授賞式の様子を伝える動画など、情報提供の方法が実に行き届いている。「いちばん売りたい本」を広めようとしているのだから、当然の取り組みともいえる。
また、書店員が選ぶという点も他の文学賞にはないユニークな特徴だ。書店員は本を売る立場にありながら、本来は読書好きな人が多い。その彼らが「読んで面白かった本」を自らの言葉で推薦しているという点が、この賞の魅力である。販売員であり、読者でもある彼らの視点が反映されているのだ。
そのため、選ばれる作品は「読書好きが、他人にもぜひ薦めたい本」であることが多い。投票制によって選ばれるため、あまりにも個性的すぎる作品や突飛な内容の本は選ばれにくい傾向にある。しかし、そうした中でもキラリと光る作品を見出す目が問われているともいえる。
こうして選ばれた本は、当然ながら書店での販売にも力が入れられる。書店の目立つ場所に専用コーナーが設けられ、平積みで展開される。
授賞式の様子を収めた動画も公開されており、本を選ぶ立場の書店員たちの熱い思いが伝わってくる。普段は「本が売れない」「本屋が廃業した」「発行部数が減っている」といったネガティブな話題が多い中で、このような明るい顔をした彼らを見るのはとても喜ばしい。
ただし、残念なこともある。2018年に始まった「ノンフィクション本大賞」が、わずか5年で終了してしまったことだ。「本屋大賞」は基本的に小説に与えられる賞なので、小説以外のジャンルにも光が当たるよう、ぜひノンフィクションの賞も復活してほしい。
ちなみに、過去5年間の「本屋大賞」の受賞作は以下の通りである。
- 2025年『カフネ』阿部暁子(581.5点)講談社
- 2024年『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈(525.5点)新潮社
- 2023年『汝、星のごとく』凪良ゆう(443.5点)講談社
- 2022年『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬(463.5点)早川書房
- 2021年『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ(365.5点)中央公論新社
なお、2025年の「本屋大賞」は4月9日に発表された。公式サイトおよび授賞式の動画は以下のリンクから閲覧可能だ。